記憶の索引2

東京の普通の会社員の日記。本や映画の感想、自然観察、日々の思い、など。 興味は科学、数学、脳と心、精神世界、植物、育児、教育、ビジネス、小説、などなど。

時空を旅する遺伝子

時空を旅する遺伝子~最新分子生物学の不思議ワールド時空を旅する遺伝子~最新分子生物学の不思議ワールド
(2005/06/30)
西田 徹

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最新の分子生物学の成果を、ビジネスの世界の例えなどを豊富に解説する良書。非常にわかりやすく興味深い話題であり良い本でした。著者は京大農学部修士を出た後、リクルート、ボストン・コンサルティング等を経て現在は独立。人材教育ビジネスなどを手がけていた方のようです。以下印象に残った点。 1. 命の回数券 - ヘイフリック限界

人間を含む真核生物は決まった時期が来たら死ぬようにプログラムされている。本当はもっと分裂できる能力はあるのに、一定回数しか分裂できないようなカウンターの仕組みを備えている。つまり、生物は一定期間で死ぬように作られている。死を敵と考えるのであれば、最大の敵は自分の体自身、ということになる。

おもしろいですね。自分の体は一定期間を過ぎたら死ぬようにできている。それを嫌だと思うのは人間の思考、知識が低レベルだからなんでしょう。人間の知性がもっと高度になり生命の仕組みを明確に理解できるようになれば、一定期間で死ぬのは当然と思うようになるのかもしれません。生命は生殖して複製した後、しばらくして死ぬようにできている。そうでなく親がいつまでも生きていれば多様性をもった生命の世界は生まれてこない。”性と意図的な死はセットになっている”というのは、言われてみればもっともな気もします。 2. 生命は自然現象に過ぎない

40億年前のRNAはたまたま自己複製する性質を持っていた。このRNAの紐とわれわれ人間は生命としての本質はまったく同じである。生命が生きている、あるいは進化することには何か目的があるように見える。が、そんなものは存在しない。生命とはRNAがたまたま自己複製する性質を持っていたことによる自然現象に過ぎない。したがって万有引力と同じく、目的はない。万有引力の目的は?と問う人はいないだろう。

よく我々は、生きる意味は、といったことをよく考えますが、ここまで明確に生きる意味はない、生命は単なる自然現象だ、と言い切っているのは始めてみました。分子生物学に深く入り込めば入り込むほど、このような見解になるのでしょう。また、本書の中で印象的な点として、DNAからたんぱく質の部品であるアミノ酸への暗号翻訳であるコドン表はすべての生物で共通であることが述べられています。つまり、人間と他の生物(犬、ばった、桜、大腸菌など)はかなり違うようだが、根本的なメカニズムは共用している、近いものだということかと思います。そうした生物の中で、”われわれが生きる意味は?”とか考えるのは恐らく人間だけ、特に一部の人間だけでしょう。そうした思考というのは人間特有の、ある意味的外れな命題なのかもしれません。