記憶の索引2

東京の普通の会社員の日記。本や映画の感想、自然観察、日々の思い、など。 興味は科学、数学、脳と心、精神世界、植物、育児、教育、ビジネス、小説、などなど。

光と色彩の科学

光と色彩の科学―発色の原理から色の見える仕組みまで (ブルーバックス)光と色彩の科学―発色の原理から色の見える仕組みまで (ブルーバックス)
(2010/10/21)
齋藤 勝裕

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著者は名古屋工業大学名誉教授で、有機化学や光化学などを専門とする方。バラが赤く見えること、ネオンサインが赤く見えること、空が青く見えること、雲が白く見えることはそれぞれ違う発色の原理である、など、いろいろと目から鱗なことがありおもしろかったです。色という身近な現象の背後にも深い物理の世界があることを感じました。こうした本を中・高生くらいのときに読んだら物理にもっと興味持っただろうな。中・高生にお勧め。 以下、ポイント。
  1. 赤という色彩は光にあるのではなく、私たちの感覚器官や脳の側にある。 確かに言われてみればもっともですね。赤という現象は、620-750 nm程度の波長の電磁波を視細胞に感じると我々は赤、という感覚を生じる。そして可視光線以外の波長の電磁波には色を感じない。色というと何となく物理の世界の気がしてしまいますが、実は物理学と生物学に跨る現象ですね。
  2. 視細胞にはレチナールという分子があり、これが光の感知の鍵を握る。レチナールは光を浴びるとオールトランス型に変換することで光を検知し、その後直ちに元に戻る。このレチナールはビタミンAから生成されるので、ビタミンAは視力にとって大切である なるほど、ビタミンAが目にとって大事、とはよく聞きますが、こうしたその理屈まで聞くと本当に大事そうだな、とうのがわかり、積極的にとろうという気になりますね。
  3. 赤いネオンサインと赤いバラの赤は発色の仕組みが違う これは子供向けの本などにもよく載っていることですね。赤いネオンサインは赤の光を発しているが、バラは青緑の色を吸収することで補色の赤が反射され赤にみえる。
  4. 分子はエネルギーを受けると励起状態になる。励起状態は不安定なのでこれが元に戻るときにそのエネルギー差分として光を発することがある。蛍光灯などはこの原理を利用している。しかしバラはエネルギーを受けても発色しない。普通の物質においては励起状態になった分子はエネルギーを運動エネルギーなどの形で放出して基底状態に戻る
  5. 分子が光を吸収するかどうかは励起状態基底状態のエネルギー差分⊿Eに依存する。⊿Eが可視光のエネルギーに一致すれば色の一部を吸収する。その結果、分子には吸収した色の補色が色として現れる。有機化合物でいうと、ちょうど二重結合を持っている分子が可視光のエネルギーを吸収する。二重結合が7つのアンセントランは吸収する光の波長が400nmに達していないから色は見えないが、9個のテトラセンになると480nm程度の光(緑)を吸収するため赤に見える。しかしながら一般には発色の仕組みは複雑なので、二重結合の個数だけでは解決できない。 色のメカニズムに分子構造が関係してるんですね。この二重結合の話はおもしろいです。
  6. 二重結合の連続を適当な長さで切れば色が消える。このように分子を分断することで色を消そうとするのが漂白。 なるほど、漂白のメカニズムをこうやって解説していただけると納得しますね。
  7. 発色の原理として、分子が光を吸収するか、放出するというものでほとんどの色彩は解説できるが、この概念で説明できない別種の色彩がある。構造色である。例えば空の色、秋刀魚の銀色、コガネムシの黄金色、欧米人の青い瞳など。
  8. 空が青いのは何故か?空気は窒素と酸素で無色の気体である。空の青は太陽の光が酸素や窒素の分子によって散乱されたもの。散乱は反射の一種で、形の複雑なものに反射すると反射光がいろいろな方向に発散する。その結果、散乱光は太陽の方向だけでなくあらゆる方向から目に飛び込んでくるので、空はどの方向を見ても青く見える。そして空が青いのは散乱光が青いから。粒子が空気分子程度の大きさのときに起こる散乱をレイリー散乱という。レイリー散乱を起こす確率は光の波長をλとすると1/(λ^4)。従って波長の短い光ほど散乱されやすいため、青が多くなる。青い光は波長が約400nm、赤い光は約700nmなので、青い光のほうが赤より約10倍も散乱されやすくなる。そのため空は青い光でいっぱいになる。
  9. 水が青く見えるのも同じ。光が水分子によってレイリー散乱されている。 空が何故青いの?、とは子供の定番の質問ですが、説明するとなかなか難しいですね。レイリー散乱なんて言葉は始めて聞きました。水の青もそうなんだ、と思っていろいろ調べてみるとなんか違うぞ。Wikipediaによると、”しかしながら、海の青色の原因の一部は空の色の反射も寄与し、レイリー散乱の寄与も完全には否定されていないものの、青色は主に水自身の光の吸収に起因するものであることが現在では判明している。”だそうです。水の色がレイリー散乱によるものというのは完全に間違いではないようですが、一般的ではないようですね。大学の先生のいうことだからといって鵜呑みにしてはいけないですね。 水の青
  10. 雲は水滴や氷の集まり。その直径は0.01-0.1mm。可視光の波長に比べると100-1000倍。このように大きなものが起こす散乱をミー散乱といい、この場合波長の選択性はなくなり全ての波長で散乱する。従って散乱色は全ての色が混じった白色となる。 空の青と雲の白は違い発色の原理なんですね。このミー散乱という言葉も始めて聞きました。こうした知識を念頭において空を見上げるとなかなか楽しいものです。空一つとっても、空の青、雲の白、夕日の赤、それぞれ異なる発色原理で奥深いものですね。野外で子供に講釈をたれてみたいところです。