数学オリンピックに出場した高校生6人の母親へのインタビューを通して、数学天才児を育てる秘訣を探るという本。母親はそれぞれあまり大したことはしていないといいつつもそれなりのことをしていたようです。
著者の三石 由起子さんは作家。
田中美佐子さんのデビュー映画、
ダイアモンドは傷つかない、の原作を書いた方だそうです。そんな映画ありましたね。
印象に残った点。
- その年齢の学年に合わせたものだけを与えておくのではなくて、もっとむずかしいものも置いておくといいんだそうです。そうすると子供が興味を持っていれば読みますし。P.78
- 毎日二時間以上テレビを見ている子の学力は、ほとんど平均以下だと指摘しています。P.101
- どの学年の場合でも、高学力の子はかなり早期から本の一人読みをしています。学級で成績の最上位のグループの子は、字を覚え、絵本などの一人読みを始めたのは三歳という例が多いようです。中の上レベルの成績の子は、四歳あたりから本が読めるようになっています。普通の子は五歳で本を手にしています。P.102
- 6このお菓子があります。お友達とふたりで分けなさい。これは割り算である。...母親たちは日常生活の中で数字をちりばめていたらしい。P.188
- インタビューを試みた父と子は、みんな仲がいいのだった。P.192
- 「燎原(りょうげん)の火」という言葉をご存じだろうか?一たび、燃え盛った幼児の熱は、勢いが盛んで消えることなく、まさにこの燎原の火にあたる。P.218
- 簡単な話、"テレビを、まず消しなさい”これができないのが、普通の家である。
- 「カール・ヴィッテの教育」で、自分の子供を教育し、みごと天才に育てたピッツバーグ大学教授のストーナー夫人は、こう書いている。”またよく双六をした。最初は二つのさいころでした。二つのさいころを一緒に投げて、例えば3と4が出ると7点を取る。...P.225
やはり本は重要なんですね。うちの子(三歳)も最近字が読めるようになって、一人で本を読んでることもありますが、いい傾向だと思います。
TVの件も、確かにTVつけっぱなし、見っぱなしの環境では思考力は働かないでしょう。ただ、最近のTVにいい番組が多いのも確かだと思います。百聞は一見に如かずといいますが、TVならではの良さもあるでしょう。まあ時間を決めてみるのが良いのでしょうね。
日常生活に数字をちりばめるというのはなるほどと思いました。あまり意識していませんでした。そういえば自分も、数字は買い物やおこづかいなどの中で自然に身について行ったような気がしています。
ストーナー夫人の足し算
さいころは確かによさそうなのでやってみようかな。
ところで、この
数学オリンピックで活躍した天才児たちがその後数学者として活躍しているかが気になりちょっと調べてみました。意外なことに、あまり活躍してませんでした。活躍しているのは、伊山 修さん。
名古屋大学教授で
日本学術振興会賞を受賞。あとの方はあまり活躍してなさそうです。本書の中で一番凄そうな感じがした、父が京大
助教授の数学者である山内淳生は、現在、
兵庫県立大学の講師のようです。あまり活躍しているとはいえなさそうですね。やはり
数学オリンピックで難問を解くような能力と、数学者として非常に抽象度の高い現
代数学の世界で活躍する能力とは、関連はありますが必ずしも一致しないということが重要だと思います。もちろん
数学オリンピックで活躍していてその後も大活躍している数学者もいます。
数学オリンピックで最年少金メダルを獲得し、数学者になって
フィールズ賞をとったテレンス・タオなんて有名ですね。
小学校、中学校、高校などで数学が非常にできる人が周りにいて、ああこういう人が数学者になるんだ、と思って、数学が好きでありながら数学の道をあきらめてしまう人も多いかと思いますが、必ずしもそういうわけではないと思っています。
私の大学の時の知人で、大学も浪人して入ったそんなにすごい切れるというタイプではないような人で、今は数学者として大活躍している人もいます。彼はすごい切れるという感じではありませんでしたが、すごい情熱で数学に取り組んでいました。また、数学者として成功するには、単に問題が解けるだけではなく、成果がでそうな分野を狙いそこに向かって勉強・研究していくといった戦略性も要求されます。こういうのは研究者としての才能なのでしょう。彼はそうした点が非常にうまいようでした。
また、対称的に別の知人は非常に数学ができ、高校時代は
数学オリンピックではありませんが、
Z会という非常に難関の通信教育でトップになっているような非常に切れる人でしたが(自分とは頭の構造が違うなと本当に思いました)、大学の抽象的な数学にはあまり関心が持てないといってコンピューターの世界に進んでいきました。
高校までの数学と大学からの現
代数学は関連はありますが別物と考えて、高校の数学でトップクラスになれなかったからといって数学の道へ進むのをあきらめることはないと思います。私が見ている限り数学者として成功している人は、問題を解くのが得意な非常に切れるタイプより、数学が好きで好きでたまらずいつも
数学書を読んでいるようなタイプのが多いような気がしています。もちろん両者を兼ね備えたタイプが最強なのは間違いないでしょう。