- 印象に残った点。
- デカルトとカントは様々な面で対照的だった。カントが散歩しながら思索するのを好むのに対し、デカルトは寝床に横になって考えた。有名なデカルト座標を思いついたのもそうしたひと時であったらしい。頭上を飛び回るハエの位置を、壁からの距離で表せることで思いついた。毎朝五時に起床するカントに対し,デカルトは昼過ぎまで寝ていた。病弱であったらしい。
- ニーチェは非常に即興演奏が得意であった。彼には、稲妻のような直感と一瞬にして闇を照らし出す明晰さ、雷鳴のような力強い言葉の響きがある。そして微妙に脈打つ観念をすばやくとらえて具象化する即興性が在る。彼のアフォリズムは哲学の即興演奏と呼んでいいかもしれない。
- ニーチェは一生涯病気に苦しめられた。一年に二百日も頭痛に苦しめられる年もあった。このほか、歯痛、眼痛、痔、リウマチ等、苦痛の巣窟であった。ニーチェの生涯は病に苦しめられていたが、しばしの回復期には稲妻のように精神が光り輝き、高揚する至福の日々を哲学者は体験している。「ツァラトゥストラ」の第一部はそうした時期にわずか十日間で完成した。
- ニーチェは障害に二度求婚したが報われなかった。
- キルケゴールの生涯ではずせないのが「レギーネ事件」。彼は17歳のレギーネと婚約した後、一年後には婚約破棄し、生涯独身で過ごした。キルケゴールの著作はこの事件を元に、レギーネのためにかかれている。この婚約破棄は彼の生涯で謎であり、研究者がもっとも力を入れるところである。その後彼はレギーネ宛の手紙を出したり、レギーネのために祈りをささげたり一人相撲をした。
- キルケゴールにとって客観的な真理などはどうでも良かった。実存に関わる本質的な認識行為はそれぞれの人間に固有のことである。キルケゴールは多くの思想家が自分の名前で考えようとしないことを批判する。
哲学からのメッセージ(木原武一)
著者は東大独文科卒の著述、翻訳家。テーマは、四十を過ぎてからの哲学再考で、カント、デカルト、ニーチェ、キルケゴール等の哲学を、哲学者の人生にフォーカスし豊富なエピソードを交え解説します。抽象的な哲学論は少ないので、哲学入門として良書です。ニーチェ関係の易しそうな本はついつい手が伸びてしまいます。