これはわかりやすい本だった。今まで読んだ
ガロア理論の本の中で一番わかりやすい。
ガロア理論は”
数学ガール”とかいろいろ簡単に解説してある本も出ているが、証明は省いているものが多いので本書のような本でじっくり勉強するのが結局
急がば回れ、のような気がします。分厚いですが、分厚いのは基礎から解説が豊富なためです。
本書では
ガロア拡大を、”自己同型群の数が拡大次数に等しいとき”で定義しています。一般に自己同型群の数は拡大次数以下になるわけですが、これが等しいときが
ガロア拡大である。つまり、拡大L/Kの自己同型群の異数が大きいということは拡大L/Kがそれなりの対称性を持っていることで、こういう場合が重要だ、ということです。私にはこの解説がわかりやすかった。私が学生の頃に勉強した本では、
ガロア拡大を正規かつ分離拡大、で定義していたと思うが、私には本書のスタイルのがわかりやすい。この他、本書ではこのように随所に、こころ、イメージ、を伝える説明がありとても良かった。
あと、細かいことだが、証明の中で、どの定理や
補題を参照しているかが丁寧に書かれている。細かい点だが重要である。不親切な本だとこの点がおろそかだったりして、そうすると定理の証明がどの定理を使っているのかよくわからず詰まってしまうことがある(著者には当たり前すぎて書く気にもならないのだろうが)。こうしたちょっとした心遣いで数学の本も随分わかりやすくなるもんだなとつくづく感じた。
たまたま
YouTubeを見ていたら、IPMUの阿部先生が
群論を語っていて、その中で
ガロア理論についてこんなことを言っていました。
"
ガロアの仕事は正に芸術で、我々数学をやっているものの憧れで、人間の知能の最も美しいものの一つだと思っています”。
はてな宇宙「第16回:群論」
同感です。私も
ガロア理論は人類の知的偉業の中で最も誇るべきものの一つだと思います。数学が好きだというと、よく、”数学は役に立つのか?”といった質問をされることがあります。実際、数学は物理、
ファイナンス、ICTなど様々な分野で役に立っていますが、例え役に立たないとしてもそれだけで学ぶべき価値のある、人間の至宝だと思います。
ガロア理論はベートーベンの
交響曲や
ゴッホの絵に匹敵する
文化遺産だと思います。私も息子に数学の美しさを教えていきたいと思っています。