心理学の本かと思いましたが
脳科学の本でした。著者は
東北大学医学部卒業後MIT留学を経て
理化学研究所で
脳科学を研究する研究者。
従来の
脳科学が閉じた領域での研究であったが、実際の脳は複数の脳の相互作用で働くことが多くまたそこが本質的な部分であり、そうした問題意識の元に立ち上がりつつある領域がソーシャルブレイン。2010年2月の新しい本ですが、黎明期であるようです。
作者は長年猿の研究をしているようですが、ソーシャルブレインでは多次元生体情報記録手法、といった手法で複数の猿の相互作用時の脳の状態を記録する、といったことを行っているようです。これにより特徴的なパターンをテンプレートとして抽出することができた。
黎明期であるこの分野の紹介といった本であり、ソーシャルブレインの成果を系統的に語る本ではありませんがおもしろいですね。今後の発展が楽しみです。
印象に残った点。
- 自他の境界
実は我々が思っているほど自他の境界は明確ではない。
- ラバーハンド実験
一方の自分の腕を隠して変わりにマネキンの腕を置く。自分の腕とマネキンの腕に刺激を繰り返しているとマネキンの腕が自分の腕のような気がしてくる。
- 仮想空間の中の生き物をで自分の意志で操ることができると、新しい自己身体像が獲得できる。これはスキーやドライバーなどの工具を持ったときにも起こる。
- 人が自己と他者を区別しているポイントは身体感覚と視覚刺激の同期情報。
- 脳の構造
- 脳は「カラム構造」と呼ばれる円柱状の機能単位が存在する。これは毛足の長い絨毯を横から見たときとよく似ている。絨毯の一本一本の毛がカラム。カラムは6層のネットワーク構造を持っている。
- 脳の性能を高めるためにはカラム内の神経細胞を増やすと言う方法と、カラムそのものを増やすという方法があるが、脳はしわを増やすと言う後者の戦略を取った。これは現在コンピュータでCPUのクロック数の向上ヶ一定レベルに達した後はコア数を増やすと言う方向になっている状況と似ている。
1-2に挙げているような元々の脳の性質があるから、人はTVゲームや
Second Lifeのようなバーチャルな世界にはまるのですね。
1-1に関しては、昔F1レーサーの中島悟さんが自分の運転感覚、車幅感覚に関して、自分の体がぐーんと伸びて車が自分の身体になっているようなイメージになる、といったことを言っていましたがそれを思い出しました。
脳には元々自他の境界が明確にあるわけではなく、経験の中で視覚情報、運動感覚を元にダイナミックに自他の境界を組替えていくんでしょうね。おもしろいですね。
2は、ITの世界で言うスケールアップとスケールアウトですね。サーバ
アーキテクチャで言えばよく、Web層-AP層-DB層という3層構造でサーバの数を増やしていきますが、似てますね。脳の場合は6層なんですね。何故6層なのか、非常に気になるところです。