記憶の索引2

東京の普通の会社員の日記。本や映画の感想、自然観察、日々の思い、など。 興味は科学、数学、脳と心、精神世界、植物、育児、教育、ビジネス、小説、などなど。

どん底名人

 稲葉禄子さんの本を読んで出てきた囲碁棋士依田紀基に興味が湧き本書を読んでみた。
著者の人生が波乱万丈で、かつ示唆に富む本であり、あっという間に読んでしまった。囲碁、ギャンブル、借金、家族との離別など話題が豊富。とくに印象に残ったのは著者が棋士として成功できたのは「虚仮の一念岩をも通す」というような思いであるとのこと。これしかない、と覚悟を決めて何か一つのことに打ち込んでいる人は強いと思う。

 囲碁の勉強の参考にもなった。意味がわからなくても対局者の打った手を碁盤に並べて暗記できるまで繰り返し並べる。この「繰り返し」が重要とのこと。無意識でできなければ実力とは言えない。このあたり数学の学習においても参考になる。小平先生が数学の本がわからないとき何度もノートに書いているうちにわかってきた、と書いていたのと共通していると思う。
また、囲碁だけでなくギャンブル・女等、多岐な話題でエキサイティング。年収は一億円近いときもあり、こずかいが年3000万、結婚して妻に渡す生活費が月100万で、2億円のマンションを購入、等うち世離れした豪快な金銭感覚に驚く。収入が多くても夜の街やカジノなどでお金を使い切ってしまいほとんど残らない。家計は破綻しマンションも売り払い、家族とも離れることになる。そんな心境が尾崎豊の「シェリー」そのものだとたとえる。最愛の息子たちと離れて暮らすはかりしれない辛さは同じく息子を持つ私にもよくわかる。ちなみに稲葉禄子によると著者の若いころは尾崎豊似の美青年だったそうである。
そして終わりにアルファ碁の話も出てきた。アルファ碁は引退にあたり、ディープマインド者がアルファ碁の自己対局50局を公開した。これは著者たち棋士にとって最高のプレゼントだったとのこと。そしてこの50局の棋譜を見たとき言葉を失ったそうである。イメージとしては手塚治虫火の鳥、今までの常識がふっとんだ世界。そしてこの50局を毎日繰り返し並べ無意識で感覚的につかもうとしているとのこと。人知を超えたものが囲碁を打つと想像を超えた世界になるのだな、と改めてAIの威力を感じた。